映画「ミリキタニの猫」/リンダ・ハッテンドーフ

ミリキタニの猫 
監督:リンダ・ハッテンドーフ
製作・撮影:リンダ・ハッテンドーフ、マサ・ヨシカワ
編集:出口景子、リンダ・ハッテンドーフ
音楽:ジョエル・グッドマン
日本版字幕:マサ・ヨシカワ

 
 この映画はthinking on the borderland art talk session vol.2の中で福住廉氏が紹介していたドキュメンタリー映画です。物語は2001年、偶然ソーホーでホームレス生活をしていたジミー・ツトム・ミリキタニ(漢字表記は「三力谷」)から映画監督のリンダ・ハッテンドーフが一枚の猫の絵をもらう代わりに写真撮影を頼まれたことからスタートします。ジミー・ミリキタニサクラメントの生まれで、国籍は日本とアメリカの2つありましたが、日本の故郷は広島でした。2001年当時でジミー・ミリキタニは80歳。第二次世界大戦の真っ只中を生き抜いた人物です。
 彼は最初はサクラメントに住んでいましたが、やがて広島に帰り、自分はアーティストであるということを理由に兵役学校へ入ることを頑なに拒否、またカリフォルニアにアートを学ぶために渡ります。専攻は日本画ですが、彼曰く、東洋と西洋を融合させた新しい芸術を創出するためアメリカへ帰ってきたのだそうです。
 ところが時代は残酷なまでにジミーとその姉に過酷な道を示します。日系人らの強制収容が始まったのです。ジミーとその姉は別々の収容所へ行くこととなり、再会を約束してそのまま60年が過ぎ去りました。彼は身包みをはがされ、財産をすべて没収され、さらに市民権も放棄してツールレイク収容所に3年半収容されます。
 このことが物語が進むにつれ次第にわかってくるのは、あの忘れたくても忘れられない9.11の同時多発テロ事件がきっかけでした。リンダは有害なガスが充満する屋外にいるジミーが咳き込んでいるのを見て、自分のアパートに招じ入れるところからこの映画の本当の物語がスタートします。
 リンダはそれまで知る由もなかった第二次大戦での日系人の扱いやジミーの失われた60年に次第に触れていき、ジミーはジミーで次第にアメリカ政府に対し悪態をついていた態度が軟化してゆきます。そしてツールレイク収容所へ60年ぶりに訪れ、すべてを受け入れるに至ったのです。放棄していたはずの市民権も復活していて、社会保障番号を手に入れたジミーは、現在独居老人用のアパートメントの一室を借り、制作を続けています。
 あの、最初に出てきた眼光鋭いジミーの姿はもはやどこにもなく、穏やかで陽気なアーティストがそこにたたずんでいます。心を閉ざしていたジミーは、なぜリンダに撮影を頼んだのかはわかりません。でも、人との触れ合いの中で幾つになっても次第に人は変わっていけるということをこの映画は映し出しているとともに、アメリカのオープンな情報公開の制度も伝えています。(60年前の資料もネットで簡単に引き出すことができる)
 この映画ではアメリカのダークな部分はあまり映し出されていません。むしろ全体がハッピーエンドに彩られて、その部分では本当に鵜呑みにしていいのかどうか迷う部分も多々あります。しかしながら政府はどうであれ、人とのつながりというものすごく基本的なことに目を向けたとき、きっと何かあたたかなものが心を支配する映画です。(雪)

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