CCA市民美術大学 美術講座 第4回金沢21世紀美術館館長 秋元雄史氏

CCA市民美術大学 美術講座 
第4回金沢21世紀美術館館長 秋元雄史氏
「地方都市で1年に100万人を呼び込む美術館の仕掛け」

モデュレーター:中村信夫(現代美術センター・CCA北九州ディレクター)
会場:北九州市男女共同参画センタームーヴ
時間:18:30〜20:30
参加料:300円

【レポート】
 秋元氏のお話を前回聞いたのは、‘NAOSHIMA STANDARD 2’(2006年)が行なわれていた当時の香川県直島町のベネッセハウスの会議室だった。秋元氏のお話を聞く前年の2005年には金沢21世紀美術館のエデュケーターさんのお話を聞きに行っている。だから今回、秋元氏がどんな話をするのだろうかと、やや意地悪な目線で参加していたのは正直なところだ。
 秋元氏の話し方には良くも悪くもとても説得力がある。これはベネッセコーポレーションの社長を説き伏せたり、直島の住民を説き伏せたりしたときについた話術なのか、それとも彼の持って生まれた武器なのかはわからなかったが、彼の話は非常にわかりやすく、聞くものを引き込む力がある。
 しかし、今回配布された「金沢アートプラットホーム2008」の概要を聞いて、私は‘NAOSHIMA STANDARD 2’と全く同じ手法を用いているようにしか感じなかった。
 秋元氏はなぜだか、美術館という窮屈なホワイトキューブを抜け出し、外へ外へと向かう傾向があるように感じる。それはいいこともあるが、そうでない面も持ち合わせているのではなかろうか。‘NAOSHIMA STANDARD 2’へ行ったときに感じた、あの島全体がまるで「ハレの日」のようなお祭りの空気感がどうも私は気になった。お祭りはいつか終わる。そしてこう思うのだ。「あの日は楽しかったね」と。
 美術館の役割、というものをちょっと硬く考えたとき、「収蔵作品を最大限に利用したり活用して新たな価値観を生み出すこと」というものが非常に重要なのだ、というのが私の個人的な意見だ。しかしながらもう一方では他所から有名アーティストをどんどん招いて派手にやることも、今まで美術に興味のなかった人たちをひきつける、あるいは巻き込むと言う意味においては重要な役割を果たしているのかもしれない。
 「毎年100万人」を美術館に呼ぶ、ということがひとつの目標になってしまったとき、美術館は本来の目的を忘れがちになってしまう恐れがあり、数だけの問題になって質は問われなくてもいいのか、という疑問が残る。
 秋元氏は非常に力のある人物だと、そう思う。だからこそ、数のノルマに負けずに、質のいい美術を提示してもらいたいものだ、と感じた。2005年にお会いした金沢21世紀美術館のエデュケーターさんたちの地道な努力をどうかいい形で受け継いでいってほしい。(雪)




秋元雄史 プロフィール(CCA北九州のサイトより抜粋)
金沢21世紀美術館館長。1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒(油画専攻)。91年から2004年までベネッセコーポレーションに勤務。国吉康夫美術館、ベネッセアートサイト直島、直島・家プロジェクト、地中美術館の企画・運営に、運営責任者として携わる。2004年−2006年、地中美術館館長、直島福武美術館財団常務理事、ベネッセアートサイト直島アーティスティックディレクターを務める。2007年より現職。