街じゅうアート

zone1969jp2007-09-12

街じゅうアート in 北九州2007「ものづくり・ものアート」
会期 2007年9月1日(土)−9月24日(月)
メイン会場 リバーウォーク北九州、小倉井筒屋、小倉伊勢丹
協力会場 和洋レストラン三井倶楽部、ステーションホテル小倉、福岡ひびき信用金庫小倉支店、布アネックス、ガーデンサロン(1・2号店)、西日本工業倶楽部(旧松本邸)、アートカフェレストラン(学術研究都市内)、千草ホテル、サンレーグランドホテル
参加アーティスト 石黒猛・大野浩介・四宮佑次・白川直行・角孝政・先崎哲進/TETUSIN・武内貴子・中西信洋・藤浩志・牧野伊三夫・八木健太郎・LICCA・渡部裕二
主催 特定非営利活動法人(NPO法人)創を考える会・北九州
【レポート】
 個々の作品によって、その存在感がうまく効果を発揮しているもの、ちょっと残念だったものとかなりはっきりとしていた。また、あまりにも商業スペースと一体化しすぎ、アートと呼んでいいのか少々困惑する作品もあった。いずれにせよ、設置する側の「商業スペースだから」「お客様の安全を第一に」という建前の前には、作品はただちんまりと鎮座せざるを得ない切ない状況がはっきりと見て取れる。作品の周囲に張り巡らされた立ち入りを禁ずるポールや真っ赤なパイロンなど、本当に仕方がないのだろうけれど、作品にとっても作家にとっても非常に残念であろうことは想像に難くない。今回の商業スペースに設置された「期間限定」の作品と街に溢れかえる「パーマネント」の裸のブロンズ像には一体どのような違いや意味があるのか、後者の無意味さや味気なさ、または市民の無関心さには一考の余地があるのではなかろうか。
 さらには期間には考慮の余地がまだまだありそうな気がする。このようないわゆる「街ぐるみプロジェクト」というと、真っ先に思いつくのは越後妻有の「大地の芸術祭」であり、期間限定プロジェクトといえば「横浜トリエンナーレ」である。(他にもあるのだろうが私が経験したのはこの2つ) もう少し長い期間の設置をしてこそ、何かが見えてきはしないだろうか。たった24日の展示で、この北九州という街に、人に、一石が投じられるのは難しいのではなかろうか。もちろん先に挙げた2つの催しが、その地域にどのような変化をもたらしたかということについてはさまざまな面で難しさはある。そのくらい、「地域」「人」と「アート」との距離を近づけるのは時間がかかるものであり、いろいろなアプローチが必要なのだと思う。もちろん大地の芸術祭横浜トリエンナーレNPO法人の活動を比較するのは酷なことであるが、このようなことがもっともっと活性化してほしいとそう願わずにはいられない。


シンポジウム 「ものづくりの街・北九州とアートの未来」
日時 2007年9月12日 18時30分−20時
会場 西日本工業大学小倉キャンパス 3F大講義室
主催 特定非営利活動法人(NPO法人)創を考える会・北九州
パネリスト 木村幸二(西日本工業大学デザイン学部情報デザイン学科特任教授) 
       谷 潤一(TOTO株式会社デザインセンター第一デザイングループグループリーダー)
       築城則子(遊生染色工房主宰・染色家 NPO法人 創を考える会・北九州 理事)
       藤 浩志(藤浩志企画制作室代表・美術家 NPO法人 プラスアーツ 副理事)
【レポート】
 「街にアートを」そしてその「未来を」語っているシンポジウムだったが、質疑応答の際に意見として出た「未来を考えるのではなく、今を考えることのほうが大切なのでは」という言葉があまりにもまっとうで印象的だった。確かに私たちは「今」を生きているのであって、それが結果としての「未来」へと繋がってゆくのだ。哲学者、鷲田清一氏の多くの著書にもよく登場するフレーズで「未来のための現在を生きるということの無意味さ、切なさ」を思い出させる。
 また、先程のパーマネントの設置ブロンズ像の話に戻ると、藤浩志氏が「作品には旬というものがあり、作品設置をする行政というものはあくまでOSでなければならない。例えば一定の「場所」に設置された作品をフレキシブルに展示換えをするような柔軟さがなければ、その『美術作品』は設置されたとたんに市民の無関心にさらされることになる」という趣旨の話には、大いにうなずけるものがあった。
 このシンポジウムでわかったことなのだが(なにしろ突然参加したもので)、この「街じゅうアート」の主旨は唯一無二のアートとマスプロダクションとしての工業製品とのコラボレーションであったらしい。そのため、作家はリストアップされた工場の中から作品作りに繋がると思しき工場へ見学に行き、そこでデザインされたものが実は人の手業によるものだということに大いに感銘を受けたと藤氏が語っていた。個人が問われるアートと機能が問われる工業製品は、両極にあるように見えるが実はとても深い部分で繋がっている、という谷潤一氏の話は非常に興味深い。(雪)